2013年7月30日火曜日

スタイルとオープニング

 オープニングは何を選ぶべきかというテーマについて、よく自分のスタイルにあったオープニングを選ぶべきと指摘される。しかし、自分のスタイルなんてものはずっとわからなかった。むしろ自分程度のレベルでスタイル云々いうのも変な気もしていた(卑下して言っているわけではなく客観的な強さとして)。例えばヴァイオリンで音程が定まっていない演奏者がスタイルなんて言っても失笑ものだろう。何の分野でもスタイルというのはある一定程度のレベルに達してからの話だろう、と。

 この考えは今でも変わらないが、少しずつ「好きな」タイプのゲームはわかってきた。自分がプレイして楽しいというより、観ていて面白いという意味あいが強いが。 観ていて面白いと感じるのはタクテクスがビシビシ決まるタクティカルなゲームではなく、一つ一つ有利を重ねていって最後に相手が瓦解するような論理に支配されたポジショナルなゲームだ。

 もちろんポジショナルなゲームといっても、タクティクスはもちろんあるだろうし、有利が重なった最後の段階は必ずと言っていいほどタクティクスに結びつく。ただ、前者のタイプのゲームにあまり惹かれないのは、後者のタイプに比べて偶然性を感じるからだ。 サクリファイスからの10手のコンビネーションを見ても、なぜか相手のミスに起因するという意味で偶然性を感じてしまう。 むしろ、じわじわと相手を劣位に追い詰め、相手が負けたことが必然であると感じさせるようなゲームに惹かれる。

 この点、元チャンピオンのアナトリー・カルポフが面白いことを言っている。

 -Let us say that a game may be continued in two ways: one of them is a beautiful tactical blow that gives rise to variations that don't yield to precise calculations; the other is clear positional pressure that leads to an endgame with microscopic chances of victory. I would choose the latter without thinking twice. If the opponent offers keen play I don't object; but in such cases I get less satisfaction, even if I win, than from a game conducted according to all the rules of strategy with its ruthless logic. -

 カルポフの場合はプレイする側としての立場であろうけれど、観ている側としては同じように感じる。

 最近見ていたゲームでは、以下のものが面白かった。 特に2つ目のアレヒンのゲームは、チェスのゲームを見ていて初めて感銘を受けた。





 こんなことを考えていると自分もあわよくばそういうポジショナルなプレイをしてみたいと思うようになった。 そう考えるとオープニングも搾られる。

 しばらくいろいろなオープニングを試した。 まず一番悩んだのが、1.d4に対する応手。1.d4からのオープニングはトランスポジションも非常に多く、またオープニングによっては多大な労力がかかるものもあるため、選択に困った。

 悩んだ結果、結局Queen's Gambit DeclinedのTartakowerにした。 Tartakowerは、chess.comで出会ったギリシャ人に勧められたオープニングだが、プレイしていて比較的心地良い。 何より、駒のセットアップが調和的で、一見詰まっているように見えてお互いの駒がそれぞれ意味をもってあるように感じられるのが良い。

 King's Indian, Grunfeld, Nimzo Indian, Slav, 等々も試したり、オープニング概要本(MCO)等でちょい読みしたりしたが、結局辞めた。 KIDは基本的にタクティカルなオープニングであるし、白はラインを絞れるのに対し、黒は非常に多くの白の手に対応しなければならないことを考えるとやめた。

 Grunfeldは、理論的に非常に複雑らしく、その時点で萎えた。 Nimzo-Indianはおそらく全オープニングの中で最も豊かなオープニングの1つなのだろうけれど、これまたラインの多さ、それに対する労力を考えるとやめた。 ただ、...e6つながりで、QGDとセットで使うこともできるのでゆくゆくは使ってみたい。 Slav、Semi-Slavは最後まで候補に残ったが、ラインによってはとんでもなく複雑で萎えた。先ほどのギリシャ人に初心者はSlavはやめておけと言われたのを今になって納得した。

 1.e4に対しては、これまたいろいろ試した。 長らくSicilian Kanを使っていたが、このオープニングはもっと上級者向けのオープニングなのではないかと思うようになった。 ポジショナルなオープニングではあるのだろうけれど、基本的に中央放置の詰まった形になるため、高度な戦略が必要になるオープニングだと思う(Understanding Chess Openingsにも同様のことが書いてあった)。 
 また、1..e5もしばらく試したが、白の手が多すぎるのでやめた。 また、ルイロペスのメインライン等一部を除き基本的にはタクティカルなプレイとなるため、この点もマイナス要因。

 そこで回りまわってフレンチを使うことに決めた(今日から)。 まず第一に、1...e6を使うという点でSicilian Kanとの共通点もあるという点が良い(Sicilian Kanでも、白がc3とした場合には、French Advance Varationになることがある。)。 レパートリーの構築として、フレンチ+Sicilian Kanというのも可能になる。
  第二に、基本的にアイデア・プラン重視のオープニングであるらしいこと。 少しフレンチのゲームを見ていたら、超がつくほどの複雑なラインもあるようだが、1つぐらいそういうラインを含むオープニングを勉強するのは良いかもしれない。

フレンチの複雑なゲーム例。

 白については、1.e4から.1.d4に変えた。 とはいえ、膨大なレパートリーの中から全く道標がないのもあれなので、John WatsonのA Strategic Opening Repertoire for Whiteを指標にしようかと思う。 ラインラインライン・・・ばかりの本なので、この本を全部読むなんてことはしないし無意味だろう。ただ、一応この本のコンセプトとしては、戦略的・ポジショナルなオープニングを提供するということにあるので、ざっくりとしたメインラインとアイデア・プランぐらいは参考にしようと思う。

4 件のコメント:

  1. ポジショナルでの優位を獲得して勝利する対局は、確かに満足度が高いですよね。
    戦略同士の対局は純粋なぶつかり合いなので本当に全力を尽くしたという感じがしますけど、タクティクスで決まる対局は見落としをするかどうかが焦点なので勝っても負けても全力だったのかどうか疑問が残ってしまいます。
    タクティクスの地力も関係あるんでしょうけど、その時の感覚やプレイヤーの癖や体調、運や偶然という要素は仰る通り必ずあると思うので、それによる決着というのは納得がいかないことも多いと思います。


    私はフレンチは封印していたのですが、最近はe5より簡単かなと思って再び使うようになってきました。
    激しい展開もありますが、比較的穏やかな変化になりやすいのでいいですよね。

    KIDは、白側の優位性が高いというのは存じています。
    白は短期的な目標を変化させられますし、その白の考えに対し一回でも駒組みの方向性を間違えると防御が間に合いません。
    私も人に教えてもらっておいてあれですが、黒側の対応がかなり難しく使いにくいと思います(笑

    駒が詰まりすぎて窮屈だったり逆に開けすぎたりということではなく、丁度良い駒のかみ合わせになるときが一番やっていて上手くいくし楽しいので、そういう局面になる定跡が一番いいんでしょうけど、なかなか相手の出方次第で変わってしまうんですよね。
    ちなみに、ニムゾインディアンはそういう意味で比較的安定しているとは思いますよ。
    あくまで使ってみた個人的な感想なので参考までに。



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  2. Alekhine vs. Chajes のゲームはチェスの醍醐味を感じますね。いろんなマスターのゲーム集を見たいと思ってますが、今はまだ知らないことが多く、それを学ぶことを優先させてます。

    確かによく自分のスタイルに合ったオープニングを選ぶといいと言われますが、自分のスタイルって何だろうと思いますね。いろいろと試している内に自分に合ったオープニングにたどり着く気がします。

    自分の場合は駒が多くあって複雑な局面は苦手なので、ピースを減少させてエンドゲームで勝負したいです。エンドゲームが好きなことも影響していると思います。一見ドローに思える局面でも1つのミスが敗因となる、そんなエンドゲームが好きです。

    私はいろんなマスターについて全く詳しくないですが、カルポフのプレイスタイルには興味を持っていて HOW KARPOV WINS という本を以前購入しました。いつ読むことになるか不明ですが良さそうな本です。

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  3. >紙吹雪さん
     最後の最後まで力が拮抗して、最後に小さな有利を積み重ね相手を押し潰す、そんなゲームには憧れます。いつかはそんなゲームをしてみたいと思っています。

     KIDは、シシリアン・ドラゴンのように良くも悪くも人を選ぶオープニングなのかなと思います。キングサイドとクイーンサイドのせめぎあいで激しいプレイになるため、アグレッシブなプレイを望むプレイヤーは好きなのだろうなと思います。

     ニムゾは白でも苦手です--; 見るべきところが多く、まだまだこのオープニングのことがよくわかっていないので、これから勉強しないといけないと思っています… 1.d4に対する応手の中でも最も勝率の高いオープニングの1つですので、そういう意味では安定しているのかもしれませんね。

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  4. >hitsujyunさん
     このアレヒンのゲームは確かチェス戦略大全を飛ばし読みしているときに初めて知ったのですが、見事なゲームですね。 戦略・プランと言葉では聞きますが、実際に見事に実演されるのを見て感嘆しました。

    >>いろいろと試している内に自分に合ったオープニングにたどり着く気がします。

     まさにその通りなんだと思います。これが自分のスタイルだ、なんて先天的に決まるものではなく、いろいろ試していく過程で、こういう形だったらプレイしやすい、こういう形だったらプレイしにくい、というように次第に好みもわかってくるのかなと思っています。

     エンドゲーム指向でオープニングをプレイするというのはプレイが一貫しやすいかもしれませんね。エンドゲームに自信がもてるようになってみたら採ってみたいプレイスタイルです。

     カルポフはポジショナルプレイヤーという評判をどこでも聞くのでしっかりとゲームを勉強したいと思っています。How Karpov WinsはMednisの本ですよね?Mednisの本1.d4対策として、1.d4のオープニングのアイデアを学ぶためにStrategic Chessという本を買ったのですが、非常に解説が丁寧で良い本でした。How Karpov Winsもカルポフのゲームを勉強する段階になったら是非手に入れたいです。 ただ、その前に年代順にBotvinnikを勉強しようと思っています。 やってみたいことが多すぎます・・・

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