2014年2月17日月曜日

ゼロからはじめるチェス2 上級編

 続いて上級編いってみましょう。

 ここからは未到達の部分なので、こうするのが最も合理的で効率的でないか、という推測を述べていくにとどまる。 ということで妄想記事扱い。

目次

第三 上級編(レーティング1700~2000)
 1.タクティクス - なぜ気づかないのか
 2.ストラテジー - Mastering三部作?
 3.エンドゲーム - シルマンシルマン・・・
 4.ゲームの見直し
 5.思考過程
 6.オープニング - やりすぎ注意!
 7.まとめ
 8.実践例
第四 最後に


第三 上級編(レーティング1700~2000)

 今まで初級・中級・上級という言葉を使ってきたが、一般人レベル、つまりアマチュアレベルでの初級・中級・上級という意味合いであることに注意。 もっと細かく分類すれば、アメリカ的に、初級・中級・上級・エキスパート・CM・FM・IM・GMとなる。

1.タクティクス - なぜ気づかないのか
 タクティクスは解けば解くほど実力があがるというのは事実だと思うが、ある程度のところでこの方法論は限界があると思う。幼いころからチェスをやってる人には必ずしも当てはまるかはわからないが、特に成人になってから始めた場合にはこの問題は顕著。 タクティクスを発見できない理由を、大人の能力である理解力で補う。

 なぜタクティクスが発見できないのかという理由を端的に示すならば、「駒とマスの配置に係るタクティクスに関する情報を把握できていないから」だと思う。 つまり、意味もなく並んでいるように見える駒でも、駒同士の直線関係、駒同士の守りの関係、特定の重要なマスとの駒の直線関係、特定な重要なマスと駒の守りの関係、等々、駒とマスの配置についてのタクティクスに関わる情報が存在する。 そして、それらを意味ある情報としてとらえることができないため、タクティクスに気づかない。 マスターにとっては明確な意味合いをもつ盤面でも、アマチュアにしてみれば意味もなく雑然と駒が並んでいるに過ぎないということになる。

 じゃあ、何をすれば良いのか。 それは、タクティクスの発生する条件を見極める力の向上、あるいは、駒の配置からタクティクス上の意味合いを読み取る能力の向上。この点については、以前書いた記事の「チェスがうまくなるには・・・」シリーズの第四回目で既に詳しく書いてある。

 特に、Understand Chess Tacticsは必読。翻訳英語なので非常に読みづらいが、素晴らしい本であることは変わらない(第三版はどうなっているか知らない)。 Understand Chess Tacticsの著者は、「おっさんになってからチェス始めたけど、わしFMになれました。」という人なので、大人になってから始めた人にとっては参考になるところが多いはず。

 まとめると、Understanding Chess Tactics、また、できれば、Tune Your Chess Antennaを完全に頭にぶち込む。この両書は本当に良書なので(ダジャレではない)、時間をかけて取り組めば効果はばつぐんだ(多分)。やり方は前回の中級編のタクティクスの項の書いた方法と同じ。

 さらに時間があれば、もう一冊ぐらいタクティクス本、たとえば、The Complete Chess Workoutなんかを一冊潰せば十分過ぎるんじゃないだろうか。

2.ストラテジー - Mastering三部作?
 ストラテジーに関しては、中級編で述べたことを継続するだけで良いように思う。

 ただし、一つおもしろい本がある。Johan HellstenによるMastering Chess Strategyという本。  この本は何よりもまず、掲載ゲーム数が非常に多いという長所がある。また、ゲームの全解説ではなく、重要ポイントに絞った解説なので、サクサク進める。 さらに、テーマ毎に分類されているためパターン認識能力向上に最適。加えて、ChessbaseファイルとしてE-Bookが存在するので(以前の記事で紹介したはず)、高速閲覧が可能。

 ポルガー三姉妹の親父のLaszlo Polgarが出版した「Chess Middlegames」という、チェスのタクティクス・ストラテジー・エンドゲームの要素ごとに4000ポジションぐらい分類したトンデモ本が存在するが、それをずっとアップグレードしたバージョンという感じの本。

 ちなみに、この本はMastering Opening Strategy, Mastering Endgame Strategyとしてシリーズが存在するのでGOOD。 ある程度マスターのゲーム集をやったら、このMastering三部作をやるのが、数をこなすという意味では一番効率的のように思える(これはただの私見かつ個人的推測なので、信ぴょう性なし)。

3.エンドゲーム - シルマンシルマン・・・
 何も考えずにシルマン本で良さそう。

 ただし、理論的なエンドゲーム(theoretical endgame)、すなわち、勝つか負けるかドローになるか理論上定まっているポジションは一定数暗記しておくべきというのが半ば通説。 なので、エンドゲームをモリモリやりたいなら、de la Jesus Villaの「100 Endgames You must know」を完璧にできたら理想かもしれない。あるいは、Pump up your ratingにも100個のエンドゲームリストがある。 とはいえ、真剣な人以外は不要だと思う。

 また、  Mikhail ShereshevskyによるEndgame Strategyもやたらと評判が良い。 人によってはエンドゲームの必読書に挙げている。悪い評判は聞かないのでできたらベストなのかもしれない。 ただし、もしかしたら、上記のMastering Endgame Strategyで代替できるかもしれない。 これは両方共読んでないためわからない(要検証)。

 とはいえ、多分chess.comで1800とか1900とか2000とかのレベルだったら、そんな知識のレベルまでは要求されていなさそう。やはりシルマン本に絞るのが妥当か。

4.ゲームの見直し
これは続けるべき。繰り返しになるので省略。

5.思考過程
同上

6.オープニング - やりすぎ注意!
 オープニングが一番の課題。 上記1~5については、おそらく誤ったことは書いていないと思うが、ここはいろんな意見があるところなので、一つの意見と思って読んでほしい。私自身の個人的考えの色合いが強いので、必ずしも参考にする必要はない。 

 なお、Pump up your Ratingのオープニング学習の項は、Chessbaseを使用することを前提に書かれているため非常に参考になる。また、John WatsonのMastering the Chess Openingsの第四巻の最後にあるコラムも具体的なオープニング選択の目安として実力毎に分類してくれているので参考になる。さらに、真っ当な成功法かつ一般的なオープニング学習に関する意見が集約されている本としては、Steve GiddinsのHow To Build Your Chess Opening Repertoireが参考になる。

(1)やっぱりやりすぎない
 オープニングは時間をかけようと思えば無限に時間がかけられる。実際、マスター達はほとんどの学習をオープニングに割いているらしい。 事実、オープニング学習って夢があって結構楽しい。「ほうほう、これが最新のラインで・・・何・・・2013年でこんなラインが・・・ふむ・・・」なんていう自己満足に浸るのには最適。 挙句の果てには「わしのオープニング・プレパレーション♡」なんてものまで作りかねない。

 が、もちろんこんなことはやめた方が良い。時間がかかるのならばなおさら極力時間をかけない方が良い。 ということで、基本的な方針としては同じで、複雑過ぎるラインは選択しない。 例えば、白1.e4ならルイ・ロペスのメインラインまっしぐら、フレンチのWinawer、カロカンのアドヴァンス・ヴァリエーションの複雑なやつ、オープン・シシリアンの複雑なライン、等々は複雑かつかかる労力がかかりすぎる。 何よりも、費用対効果での見返りが少なすぎる。

 なので、やっぱり時間をかけたくないなら、複雑なオープニングは避けるべき。 ただ、もっと上を目指すのならば、後々のことを考えてメインラインを選んでいくというのが良いだろうし、それが一般的な見解でもある。 メインラインを学んでこそチェスの理解が深まるという意見は根強い。 しかし、あくまでも趣味の範疇でとどめ、かつ、少ない時間で早く上達することを目的とするなら、オープニングに多くの時間を割くべきではない。そして、この考えに従うならば、複雑なメインラインに従うのは避けた方が良いということになる。 ただし、時間の兼ね合いで時間がある人は自由に選んだら良いと思う。

(2)オープニング本に要注意
  オープニング学習でハマってしまう罠として、オープニング本はやたらと魅力的な本が多いというのがある。 「Killer Opening...」 「Explosive Opening...」「Strategic Opoening...」「Mastering....」等々魅力的な題名+宣伝文句で、あの手この手でアマチュアを籠絡しようとしてくるのがチェス本出版社。 題名+宣伝文句+できそうなプレイヤーによる高評価レビュー、そんなものが揃えば、「わしもこれやったらチェスうまくなるかもしれない・・・」と思える。

 ・・・が、基本的にオープニング本に期待してはいけない。オープニング本には二つの類型がある。一つは具体的なラインが書かれたレパートリー本、もうひとつはゲーム掲載本。 特に前者はアマチュアには基本的には不要だと思う。 買うとしたら、後者のタイプ、かつ、タクティクスのアイデア、ストラテジーのアイデア、等々が明確に紹介されているものに限るべき。

 なぜ、前者のタイプが不要かというと、そもそも紹介されているラインを全部自分のレパートリー化することは現実的に不可能であるという点(もちろん膨大な時間があれば可能かもしれない)、また、暗記もおそらく不可能であるという点が挙げられる。

 そして、何よりも現代においては、Chessbaseといったデータベースが存在するので(しかも、勝率、近年でプレイされている割合等の情報付き)、そんな紙媒体の完全レパートリー型の本の意義は限りなく小さい。 参照するとしても、あるラインを検討しているときに意味がわからない、といったときに辞書として見るぐらい、あるいは、面白いアイデアが紹介されているか確認する程度の扱いにとどめるべき。 逆にそういう意味では使えるとは思う(例えば、John WatsonのPlay the French)。 通読して全部暗記を試みるのはアマチュアにとっては無駄かつそもそも現実的に不可能なのでやめておいた方が良い。


 ちゃんと読んでないから偉そうに言えないけれど、最近Everyman Chessから出ているMove by Moveシリーズは一手一手解説してくれているので良さそう。また、ストラテジー、典型的なタクティクス等の解説もあったりする。 また、手に入れるのが若干難しいが、Mastering The French, Mastering the Spanishといった本は、ポーン・ストラクチャーに即して、アイデアについてメインに書かれているので良い。

(3)じゃあ、何するの
 じゃあ、何するのかといえば、ある程度は自分のラインを確立して相手がやりにくいラインを模索するのが重要だと思う。 そして、その作業は基本的には基本的なアイデアが紹介された簡単な本+Chessbase等のデータベースによるオープニング構築作業で十分。

  例えば、フレンチのエクスチェンジ・ヴァリエーションを例にとると、黒側でやってみると非常にやりやすいというのがわかる。実際に、例えばchess.comのデータベースで見れば、エクスチェンジ・ヴァリエーション(1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5)の勝率は、白21.5%、ドロー52%、黒26.5%と黒が高い始末。 シンプルなオープニングは相手にとってもシンプルなので、数を多くこなしている黒の方がやりやすいなんてことになる。

 そして、ある程度のレベル以上になると、相手にとってやりやす過ぎるラインばかり選択すると苦しくなるのは事実。そういうときは、できるだけ、相手にとってやりにくそうなラインを選択していくのが一つの方法。 データベースの勝率が一つの目安になる。

 例えば、フレンチのエクスチェンジで、Monte Carlo Variationというのがあるらしい(1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.c4 Nf6 5.Nc3 Be7 6.Nf3 O-O 7.Bd3 ) 。 フレンチというか1.d4のオープニングのような形になるが、勝率は白53.7%ドロー29.6%黒16.7%とやたらと勝率が高い。 勝率が高いということはフレンチ・プレイヤーにとってやりにくいラインではありそうである。(とはいいつつも、Monte Carlo Variationについて無知なので、実際この勝率がどの程度の意味合いがあるかは知らない)

  こういう作業を通じて、自分なりのラインを作っていくのはなかなかに良い案だと思う。 「オープニングがダメだ!→最近発売された白レパートリー本を丸暗記しよう!」なんていう単細胞的方法を採るよりはずっとマシではあることは確か。 ただし、あまりにもマイナー過ぎるオープニングだとアイデアも理解できないままプレイしてしまうことになるため、良くない。ある程度情報が集まるオープニングが望ましい。要するに、ライン構築作業はデータベースで自分で構築、アイデア等は書籍等(あるいはDVDも)で学習、と分担する。 

 時間がかからない(キーボードの↑↓→←を押しまくるだけでライン構築可能)、おそらく相手も大して知らないだろうから労力をかけすぎる必要がない、というのは大きい。 勝ちに行くためには相手の嫌なことを労力をかけずに行うのがベスト。 ただし、こういう方法だけで上のレベルまでいけるかは不明。 とはいえ、それ以上を目指すのは本当に真剣にチェスをやっている人ぐらいだと思う。 また、自分のラインを構築する際の具体的方法論については、Pump up your ratingが詳しい。

 もしやる気まんまんならば、例えば、Chessbaseで発売されているMegadetabase等を購入して、自分が選択したラインのマスターのゲームを自分なりに分析していく作業はおそらくかなり有益。Megadetabaseには玉石混交ではあるが(アマチュアにはよくわからないという意味で) 、ゲーム解説がついたゲームが6万個ぐらい収録されている。それらを一つの参考として自分なりに分析作業を加えればベスト中のベスト。 アイデア等も理解できるはず。 ただし、相当時間はかかる。 もちろん、既に当該ラインに関するゲーム本があるならば、それを利用した方が良い。

(4)オープニングが決まらないときは
 あまり考えすぎは良くないと思うが、オープニングが決まらないときは、Chess.comのForum等で質問するのも良い。フレンドリーに書いたら、上手いプレイヤーが懇切丁寧にアドバイスしてくれることもある。

 また、簡潔なオープニング本として「Understanding the Chess Openings」という本があるので、各オープニングの特徴をつかむためには使えるかもしれない。ただし、薄すぎるのでそれ以上の使い道はなさそう。

(5)まとめ
 具体的な方法論としてまとめるならば、①データベースで相手のやりにくそうなラインを選択、②当該ラインについて本があれば本でアイデア等を学ぶ、③時間があれば自分用のラインを栽培する、気になるところがあればレパートリー本等で説明があるかチェック④やる気がもりもりなら選択したラインのマスターのゲーム自己分析あるいはゲーム本の参照、ということになる。

7.まとめ
 上記すべてをまとめれば、①タクティクスは、タクティクスの構造理解+演習本一冊完璧化。②ストラテジーは原則として従来通りの方法。ただし、Masteringシリーズが吉かもしれない。③エンドゲームはシルマンが基本で、やる気があれば理論的ポジションやエンドゲーム・ストラテジーをおさえる。④オープニングはほどほどに。ただし、相手が嫌がるような自分のラインを作る。やる気もりもりなら選択したラインのマスターのゲームを自分なりに分析する。ということになる。

8.実践例
 中級編と同じく一時間をとれたとしたら、やはりタクティクス15分、ゲーム+ゲームの検討45分がベストだと思う。ストラテジー、エンドゲームは暇があるとき、週末にやるぐらいか。 90分なら、まずはエンドゲームを潰してしまい(シルマン本のAまで、余力があればエキスパートまで)、その後ストラテジーとオープニングを交互に30分という感じか。 具体的な時間配分は前回の中級編参照。

 また、中級編で書き忘れていたが、たまには長い時間のゲーム(例えば45/45や30/30)をするのはかなり重要のようだ。長い時間をかければかけるほど思考過程に意識することもできるし、自分のゲームの記憶は残りやすく、それゆえにミスの記憶も残りやすい。当然、ゲームの見直しは必須。 

第四 最後に

 以上が、今私が知りうる限り、また、考えるうる限り最も効率的な方法になる。 ただし、方法論自体よりも、最も重要な点は、意識的な学習を繰り返したかどうか、また、いかに無駄を省くかにかかっている。 それさえできていれば、明らかに誤った方向に進まない限り、大して効果は変わらないというのが真実だろう(多分)。 これはチェスに限らず、どこの分野でも同じだと思う。 正しい方向性と正しい努力というやつ。

 前回の記事の最後でも書いたが、絶対に気をつけるべきは、①オープニングやり過ぎない、②ゲームの見直しはする、③タクティクスを軽視しない、④やることを明確に絞って手を広げない、ということだと思う。 これさえ守って、意識的な学習を繰り返して、かつ、それを継続することができれば、上達しない理由がないのではないか。

 もっとも、今まで述べてきたような方法はできない人も多いとも思う。 第一ハードルが、意識的な学習はするのが大変だということ、第二ハードルが継続の難しさ。 これは、どれだけ意気込んでも難しい。 逆に、意志力のある人にとっては大して難しい話ではないかもしれない。 もっとも、時間を大してかけない、例えば、一日1時間、90分ぐらいなら、実践できるかもしれない。 これを2時間、3時間とか実践することができる人がいたら、かなり上達するのではないかと思う。 誰か実践してみて結果が出た!なんてことになったら、レポートしてください。


参考になれば幸いです!

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