2013年6月15日土曜日

チェスが上手くなるには・・・3.タクティクスその1

 前回まででミスについてのお話は終わり。ミスを減らすという作業が自分のマイナス部分を除去するという作業とするなら、今回から扱う内容は、プラスを加算していく作業。(ただし、特に初中級者の段階ではマイナス部分を除去するという作業が重要と思われる。)。すなわち、タクティクス、ストラテジー、オープニング等について扱っていく予定。

チェスが上手くなるには…3.タクティクス・チェックメイトその1

 はじめてばかりのプレイヤーが実力を伸ばしたいと考えるならば、何よりもまずタクティクスに習熟する必要がある。タクティクスによって駒得すれば勝てるし、逆もまた然り。万年ナイトフォークに気づかないようでは実力は絶対に伸びない。また、チェックメイトのパターンも同様に覚えなければならない。

 では、タクティクスの実力を伸ばすために何をすればよく、どのようにすれば効率が良いか。(以下では、「大人」の学習を念頭に置いている。)

 これについてはいろんな考え方があるが、一般的に述べられていることをまとめたら次のようになるだろう。

①タクティクス・チェックメイトの各モチーフを理解する。
②問題演習
番外 タクティクスの仕組み理解

今回からそれぞれについて扱っていく。まずは、モチーフの理解について。

1.タクティクスのモチーフ・メイトのパターン

 タクティクスのモチーフとは、ピン、フォーク、ディスカバードアタック、Zwischenzug(In-between moveとも言う)等々のことである。 具体的には

http://chesstempo.com/tactical-motifs.html

ここのページに非常に細かく分類して書かれている(英語)。

「チェス入門」にもピン等のいくつかの基本的なモチーフが紹介されている。

http://chess.plala.jp/

 実戦において、強制手順をひたすら潰して手を読んでタクティクスを発見するということもある。しかし、複雑なタクティクスになればなるほど、最終的な局面、つまりタクティクスのモチーフの原型状態を想定して手を読むということが多くなる。特にメイトならばほとんどの場合、メイトの最終形を想定して手を読むだろう。

 例えば以下のような例では、最初にナイトフォークというモチーフに気づいてから、それを「達成」するために手順を考えることになるだろう。



 最初の段階では各モチーフがどのように現れるのかということをしっかりと理解することが重要だ。そして、パターンの学習に注意を傾けるためにも、難しい問題ではなく簡単な、モチーフがわかりやすく表れている問題を繰り返し解くことが有効と考えられる。

 では、タクティクス・メイトのモチーフ・パターンを理解するためには何をすれば良いか。具体的には本による学習とソフトウェア・タクティクス専門のサイトによる学習が考えられる。人によって好みがあるだろうから、複数紹介することにする。

 いずれの方法によるにしても、繰り返すことが重要だ。そもそもこのような「問題演習」を行うのは、問題で学んだ局面と「似た」状態が実際のゲームで現れた場合にこなすためだ。したがって、特に基本的なモチーフ・パターンについては、見て即座に解けるというレベルにするのが望ましい。

(1)本による場合
ア タクティクス
 以下に挙げる本は、①タクティクスのモチーフの解説(または、モチーフ毎による分類)があり、②難易度が低い問題を集めたもの、という条件を満たす本の中からオススメできるもの。どれか一冊あれば十分だろう。

- Winning Chess Tactics
 Winning Chess Tactics。初心者のタクティクスの第一冊として進められることが多い。各モチーフの説明が丁寧になされているし、難易度は低い。難点はタクティクスの問題集の割に文字が多く、読むのが面倒、そのくせ問題数が少ない。まずは解いて覚えたいという人にはオススメしない。確か300題程度。

-Chess Tactics for Students
 Chess Tactics for Students。アメリカのDan Heismanというコーチ一押しの本。考えるより慣れろタイプの本。 各チャプターの冒頭に軽くモチーフの説明の後、数十問の同モチーフを用いた問題がある。問題のレベルは簡単。個人的には初心者がモチーフを理解する上では、最善に近い本だと思う。しかし、手に入れるのが面倒(米国Amazon.「com」か直販サイトで購入する必要あり)。したがって、そこまでして手に入れる価値はなく、他の本で代替可といえる。430問程度。

-Chess Tactics for Champions
 Chess Tactics for Champions。有名な5334問のタクティクス本の著者の娘、スーザン・ポルガーの本。この本も各チャプターに軽くモチーフの説明と例題を載せた後に、同モチーフを用いた問題を数十題提示するというタイプ。難易度としては、chess.comのタクティクス問題の1300~1600程度か、前者2つより難易度は高い。この本も個人的にはオススメ。570問程度。

-Learn Chess Tactics
 Learn Chess Tactics。イギリスのGM John Nunnのタクティクス本。この本も同様に冒頭に各モチーフの説明+例題というスタイル。ただし、説明は上記ポルガー本よりも詳しい。難易度はポルガー本より若干難しい程度。オススメ。600題程度。

-1001 Chess Exercises for Beginners ★
 1001 Chess Exercises for Beginners。最近出版された本。もともとはイタリアで販売されていた本が翻訳されたもの。題名の通り1001問。もっとも、内容は「Beginners」と書いてあるが、問題のレベルは初級~中級程度と幅広い。 この本も冒頭に各モチーフの説明+例題、その後に問題というスタイル。説明は薄い。ただし、メイトの問題も多い。何より問題数が多いことが魅力。値段も安い。個人的には、何か一冊となった場合、値段・手に入れやすさを考慮すれば、現時点ではこの本がベストではないかと思う。

-Chess Tactics
Chess Tactics。 タクティクスのモチーフの分類が細かく、解説も丁寧、問題も簡単すぎず難しすぎず適度。一冊目としてオススメできる。ただ、絶版のため入手困難かも。中古で手に入ったらラッキー。ただし、あえて高い金を出して買う本ではない。

-Simple Chess Tactics
Simple Chess Tactics。 ここに挙げた中では最も簡単な本。かなり薄めのモチーフ解説の後、かなり簡単な問題が続く。他の問題集が難しすぎるという人にはオススメ。

-Power Chess For Kids
 Power Chess For Kids。 いかなる状況であっても強制手順は読むべきであるが、その重要性を説いている本。子供向けの本だが、強制手順を読むことの重要性が改めて理解できる。一応タクティクスのモチーフ解説もある。 上記いずれか一冊+αの本として初心者にオススメ。 ちなみに、この本のレベルアップ版でForcing Chess Movesというものがあり、相性がよいと思われる(但し、そちらはずっと難しい)。

イ メイト
-チェックメイトの技法(The Art of Checkmate)
 まずは、チェックメイトの技法。英語版は、The Art of Checkmate。有名なチェックメイトのパターンを詳しく説明かつ網羅している。ただし文字が無駄に多く読むのが面倒。

-Checkmate for Children
 次に、Checkmate for Children。 知名度はあまり高くないが個人的にはオススメの本。 メイトとなりうる駒の配列を一覧で冒頭に紹介、そしてそのパターンを用いた問題がそれに続く形。視覚的にメイトの形が覚えやすい。丸暗記しやすいと思う。オススメ。

 メイトの問題本はたくさんあるが、メイトパターンを重視して解説している本は上記二冊が良いのではないか。

(2)ソフトウェア・ウェブサイトによる場合
-Chess Tempo ★
 まずは、Chess Tempo。個人的には、このサイトの有料版があれば、他の本は不要なのではないかと思う。有料版登録すれば何ができるのかというと、タクティクスのモチーフ・難易度・手数・ユーザーによる評価・当該タクティクスの派生してきたオープニング・ユーザーによって解かれた回数・作成日時・自分が間違えた問題・駒の数…等々、非常に細かい設定をもって問題を絞り込むことができる。 例えば、「Sicilian Najdorfから出現するタクティクスで、駒の数は総数28個程度、1980~2012年のゲームからのタクティクス」なんていう指定も可能。

 しかも、上記で紹介したようにモチーフの分類が非常に細かい。 このサイトがあれば、各モチーフ毎の問題群、自分の問題集も作れる。例えば、ピンで50問、フォークで50問…、問題の難易度はRating1000-1200などと設定すれば良いだろう。それだけで自作の良質パターン特化問題集が作れる。

 料金は、ゴールド会員で月4$又は年間35$。タクティクス本を買いまくってお金を無駄にするよりこのサイト一本というのでも十分ではないかと思われる。
 
-Chess.comのChess Tactics Trainer
 ひたすらタクティクスを解くだけの場所。難点としては、問題の復習がやりにくい、モチーフ毎の分類ができない、その他Chess Tempoのような問題の分類ができない。ただ、Chess Tempoに比べレーティングが上がりやすく、上達が目に見えてわかりやすく、実力チェックには最適か。
 Chess Tactics Server等他にも似たようなサイトが複数あるが、似たりよったり。

-Chessimo
  Chessimo。ソフトウェア。なかなかおもしろいコンセプトのタクティクス・メイト・エンドゲーム・ストラテジー全ぶち込み問題集。 チェスで最も重要なのはパターン認識であるという理解を前提に、普通に解いて進めていくと全ての問題を7回、回せるように作られている。

 具体的には、問題がユニットにわかれているのだが、まずは今回の問題30題、次に前回の問題20題の復習、前々回の問題20題の復習…全部合わせて150題といった風に、復習が自動的に組み込まれている。 親切に、day1,2~と、毎日すべきプランまで立ててくれている。(一日分にしては多すぎる気もする量だが・・・)

 タクティクス・メイトのパターンについての説明はない。しかし、解いてみたらわかるが、モチーフが理解できるように超易→易→中→難とうまいこと問題の順番が作られており、自然にモチーフ・パターンを理解できるようになっている。

 ただし、量が非常に多く、「Tactics」編については、多くの人がチェックメイトの章で力尽きるのではないかと思われる。(タクティクス編は6チャプターほどあり、1つのチャプターにつき50ユニット、1つのユニットの中に80~250題程度。チェックメイトは第一チャプター。)。 問題数としては、タクティクスが4000問程度、ストラテジーが700問程度、エンドゲームが1400問程度というマンモス容量。 しかも、それが7回繰り返される。お腹いっぱい。

 何も考えずにプランを立ててくれるので、スパルタ教育が好きな人にはオススメ。

-ChessOKのソフトさまざま
 ChessOKという会社(旧名Convetka)があり、非常に多くのソフトウェアを販売している。特に、CT-ART 4.0というソフトがおそらく最も有名。 Michael De La Mazaという人物が、Rapid Chess Improvementといういかがわしい本の中で、「タクティクスばかりやればFIDEレーティング2000に到達できる、俺はCT-ARTを8回繰り返して、レーティング2000に行ったよ!」といういかがわしい主張を揚げ、真似をする人が続出したらしい(結果的にはほとんどの人が同じような成果を残せなかった)。

 話を戻すが、CT-ARTは1000問程度の問題集。タクティクスサイトのようにマウスで手を選ぶという方式。解く方法としては、第一問目からひたすら解くという方法もあれば、タクティクスのモチーフ毎に解くという方法もある。 問題の正誤数により自分の概算レーティングも算出してくれる(超がつくほどの適当算定だが…)。 難易度は高め。Chess.comのタクティクス問題の1700~2000以上ぐらいか。したがって、モチーフ・パターンの理解の初歩としては難しすぎるだろう。中級者以上の人がモチーフ・パターンの再確認としては有用なのではないか。

 CT-ART以外にもタクティクスのソフトが充実している。ただ、片手間で作った臭がするソフトも多く玉石混交。少なくとも、タクティクスのソフトに関して言えばCT-ART以外に特にめぼしいものはないだろう。(エンドゲーム、ストラテジーに関しては非常に評判が高いものもある。)

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